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Decentralized Kingdom 第1章 8 /著:小鈴危一 /仮想通貨SF小説

   

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Decentralized Kingdom 第1章 8 /著:小鈴危一 /仮想通貨SF小説

 首を傾げる僕に、クレは机上のスマホを操作し、なんらかのウェブページを表示する。
BIP39……?」

「そう、ビットコインに関する改善提案ビットコイン・インプルーブメント・プロポーザルの三十九。ブロックチェーン黎明期に考えられた、秘密鍵をバックアップする仕組みだよ」
 クレが説明し出す。

「はじめに初期乱数を生成して、それを十一ビットごとに区切って一から二〇四八までの数字を十二個作るの。すべての数字にはあらかじめ一つの単語が割り当てられるから、百三十二ビットが十二個の単語で表せるようになる。これを変換してシード値にして、そこから秘密鍵を作るの。これがハードウェアウォレットの仕組み。だから単語のバックアップさえあれば、秘密鍵を復元できる」

「ごめん。なに言ってるかぜんぜんわかんない」
「もおおお! じゃあソース読めよぉ!」
「……読んだよ。だいたいわかった」

 英語だから自信ないけど、要するに、秘密鍵の元になる数値……のさらに元になる数値を、十二個の単語に変換したものらしい。

 秘密鍵は重要なものだが、十六進数で書かれた長ったらしい数値でわかりにくい。だから書き間違いや打ち間違いをなるべく防げるよう、記憶しやすい単語ニーモニックコードでバックアップできるような仕組みを作った、ということのようだ。

「ほんとにわかった? これこれ。こういうことだからね?」
 クレがMnemonicCodeConverterというプログラムを開いて、生成ボタンを押す。秘密鍵のシミュレータらしかった。長いシード値とともに十二個の単語が表示される。

 なたでここ、たいいん、がっきゅう、べにしょうが、よごれる、がんか、さんこう、めいわく、らぞく、せまる、やすみ、けんない。

「日本語なんだな」
「うん。言語は選択できるの。他にも英語とか中国語とかフランス語とかイタリア語とかあるよ」

 これが秘密鍵のバックアップになるらしい。しかしシュールなチョイスだった。ナタデココに裸族って……これを作った人はなにを思ってこの単語を選んだんだろう。ソースにあったワードインデックス一覧のリンクに飛ぶと、一から始まる数値と共にとりとめのない単語が五十音順に並んでいた。二千四十八も必要だから、選んでなんていられなかったのかもしれない。

「一応似ている単語がないように、って配慮されてるみたい。バックアップ用だから」
「ああ、なるほど」

「藤井さんには、このリカバリーフレーズを見つけてほしいの」
 どうやら、それが本題らしかった。

「……あのさ、それってかなり重要なバックアップだろ。少なくともオンラインの端末には保存しないような」
「昔は金属製のプレートで物理的に保管してたみたい。火事でも焼けないように」

 

「……そんなものどうやって見つけろっていうんだよ。僕は超能力者でも空き巣でもねーぞ」
「でも藤井さん、今まで何度もいろんな企業の秘密を盗み出してたじゃん。ハッカーにも手が出せないオフラインの情報まで」

「人聞きの悪いこと言うな。あれは、その、注意喚起してただけだ。ちゃんと返したしセキュリティの問題点も教えたし、割と感謝されてたんだからな」
「知ってる」

 クレは真剣な表情で言う。
「超能力者でも空き巣でもないけど、藤井さんはどっちにもできないことができる。さっきのスマホだって、まさか本当に解除されるなんて思わなかった。あたしはソーシャルエンジニアとしての藤井さんに頼みたいの。お願いします」

 そう言って、クレは頭を下げた。
 僕は固まりかけていた口を無理矢理動かす。
「……そもそも、それならなおさら自分の方が適任だろ。娘なんだから。家捜しでもすればよかっただろうが」
「一応探してはみたよ。家も端末も。でも見つからなかった。ていうか、たぶん無駄だと思う」

 クレは顔を上げて言う。
「お母さんはそんな簡単に見つかるような場所にはぜったい隠さない」
「……じゃあどうしてるって言うんだよ。まさかバックアップ取らずに記憶してるとかか?」
「ううん、わかんない。それもリスクあるけど……そうかも」
 僕は溜息をつく。ますますどうしようもない。

「そもそも、それはなんの秘密鍵なんだ? というか、勝手に持ってきたとはいえ娘に市街警備のドローン差し向けるって」
「それは……知らない方がいいよ」

 クレは目を伏せ、自分のカフェラテを傾けながら言う。
「やっぱりやめる、なんて言い出されたら困るしね。まあとある契約コントラクトとだけ言っとく」
 僕は、腹の底から冷たいものが湧き上がってくるのを感じた。


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