暗号通貨【トレンド速報】

暗号通貨(仮想通貨)の最新情報をイチ早くお届けします♪ 【注】ここでは億り人に近づけるかも知れない情報を発信していきますが、何らかのトラブルに見舞われても当方では一切責任を負いませんのでご利用の際は自己責任でお願いします。

Decentralized Kingdom 第1章 18 /著:小鈴危一 /仮想通貨SF小説

   

Pocket

Decentralized Kingdom 第1章 18 /著:小鈴危一 /仮想通貨SF小説

「言ったでしょ藤井さん。リカバリーフレーズは日本語以外もあるんだよ。このハードウェアウォレットはBIP39のすべての言語に対応してるから、言語選択を変えて復元してみたの」

「それでなんでイタリア語のフレーズがわかったんだ? ただ訳しただけじゃないよな」
「ワードインデックスが同じだったんだよ。日本語とイタリア語で割り当てられてる単語が違うだけで」

 僕はまだわからない。
「ワードインデックスが同じ……? 初期乱数が同じってことだよな。じゃあ、秘密鍵も同じになるんじゃないのか?」

「違うよ。藤井さん、やっぱりちゃんとわかってなかったじゃん。秘密鍵のシードは初期乱数じゃなく、リカバリーフレーズそれ自体から作られるんだよ。PBKDF2っていう鍵導出関数を使ってね。だから言語が変わると初期乱数が同じでも秘密鍵が変わるの」

「そ、そうなのか……」
 普通によくわかっていなかった。ソースも細かいところまでは見ていなかったせいだろう。
 だが、これで再び交渉の余地が生まれた。

「話を戻しましょうか、呉さん」
 僕は笑みを浮かべて言う。
「取引です。この秘密鍵は見なかったことにしましょう。だから——」
「はっはー! どう? お母さん! これあたしの署名で再暗号化しちゃうもんね。お母さんはもうこのコントラクトいじれないよ」

「おい!」
 いきなりとち狂ったことを喚きだしたクレを、僕は慌てて遮った。そういえば最初にそんなこと言ってた気もするが、今はそれどころじゃない。
「ふざけんなバカ! 僕の立場はどうなる…………ん?」

 僕の目が、クレの持つスマホのホログラムディスプレイに吸い寄せられる。
 桃色の花が背景になったキラキラしたデザイン。どうやら例の秘密鍵のウォレットを管理するサービスサイトのようだが……。

「え、なにこれ、パートナーシップ・イン・ジ・エアー……ってこのサイト、大昔からある婚姻証明サービスだよな。クレ?」

 僕の言葉に、クレが目にも止まらぬ早さで顔を逸らす。

 考えを巡らすが、わからない。このサービスは僕の知る限りブロックチェーンに婚姻契約を刻むだけのものだ。結婚生活のあれこれだとか離別時の財産分与だとか……。LGBTや年齢で結婚に制限があった過去、他人に改竄できないブロックチェーンの婚姻証明が一時期流行ったと聞いたことはあるが、別に黒い噂とかはない。

「おい、なんだよこれどういうことだよ」
「……その様子を見るに、君はなにも聞かされていなかったのか?」
 呆れたような声。僕が疑問の視線を向けると、呉槭樹はしかめっ面で説明する。
「そのウォレットの中身は、私と元旦那の、ただの婚姻契約だ。昔のな」

「……はあああああ?」
「言っただろう、その秘密鍵はごく個人的なものだと」

 呆気にとられ、僕はクレに問いただす。
「そ、そうなのか? い、いろいろとなんでだよ」

「まったくだ。一体どういうつもりだったんだ、ヨシオ」
「……だってさぁ! しょうがないじゃん!」
 クレが逆ギレしたみたいな声で母親を指さす。
「お、お母さん、お父さんと別れるつもりだったでしょ!」

「もう別れてるが」
「そうじゃなくてぇ!」
 クレが地団駄を踏む。
「この契約(コントラクト)も解消するつもりだったでしょ、ってこと!」
「……」

「別に離婚して欲しくなかったとか言わないよ。でもさぁ! 今さらわざわざコントラクトまで壊さなくたっていいじゃん!」
 クレはいつの間にか涙声になっている。

「お、思い出のコントラクトなんでしょ? 前にお父さんから聞いたもん。お母さんまだ十七で結婚できなかったから、シチリア島での二回目のカンファレンスのとき、ブロックチェーンにコントラクトを書き込んだんだって。それが初めての結婚式だったって。あ、あたしの名前も、そのとき決めてブロックに刻んだんだって」

「……まあ、そうだな」
「ハードウェアウォレットだってお父さんが用意したんでしょ? あのリカバリーフレーズも、お父さんがああなるようにしたんだよね? 何回もリセットして……いいじゃん、残しておいてもさぁ!」

「あのな……当たり前だが、チェックサムには法則があるんだ。あの男がそんな非効率な方法とるわけないだろう。まあ……もう少し現実的なやり方だったはずだ。それに出て行ったのは向こうだぞ」

「お父さん共同生活とかできない人だもんしょうがないよ。それにまだぜったいお母さんに未練あるからね」
「まさか」
「ぜったいそう。あたしわかるもん」

 呉槭樹は、そこでふっと息を吐いて表情を緩める。
「そもそも、私は今さらそのコントラクトをどうにかしようなんて思っていない。お前に盗まれて久しぶりに思い出したくらいだ」

「え……そうなの?」
「むしろどうしてそんな勘違いしたんだ」

「だって……お母さん、このサービスのトークンすっごい買い集めたあと全部売ってたじゃん。手数料系トークンのボラティリティ上げるのって、そのプロジェクト潰すときの手なんでしょ? だからもう、お父さんとのコントラクトも壊しちゃうのかと思って……」

「市場を見たか? 私は価格操作なんてしていない。買い集めたのも『鯨』どもから相対取引を通じてで、売った先はパートナーシップ・イン・ジ・エアーの運営企業だ」

「え……」
「あそこのCEOは昔からの知り合いでな。収益が改善してトークンをいくらか買い戻すというから、私も少し協力しただけだ。昨日にはプレスリリースが出ていたはずだが、ニュースを見ていなかったか?」

「あ……ほんとだ。えー……言ってよ。あたし一回それとなく訊いたじゃん」
「言えるわけないだろう。あのときは非公開情報だったんだぞ」
「なんだ、もう。あーあびっくりした」

「あのご歓談のところすみません、ちょっといいですか」
 僕は二人を遮って手を上げる。
「もう帰ってもいいですかね、僕」
「あ……」

 気まずそうに目をそらすクレに、僕は言う。
「一つ訊きたいんだけどさ、僕最初にウォレットの中身訊いたよな? なんであのとき教えてくれなかったんだ。知らない方がいいとかなんとか言ってたけどさ」

「えー……だって」
 クレは視線を泳がせながら言う。

 

 - 記事

↓